三月の雨
16
「圭」
引き止める声に、圭はかがめていた体を起こした。履きかけの革靴のつま先を地面に打ち付ける。
目に映ったのは黒く長い髪。
この世界での幼なじみ。実感はないけれど、たしかに彼女は幼なじみで、不思議な事に他の人間にいわれたら腹が立つような事をいわれても気にならない。
こういうタイプの幼なじみは初めてだが、なかなか可愛く思える。幼なじみマジック。
「紅子」
何、と聞くとずい、と鞄を押し付けられた。持て、という事か。
それを受け取って彼女が靴を履き終えるのを支えて待つ。
履き終えるとさっさと歩き出してしまう紅子のあとをのんびりとついていった。
女の子で、自分よりも歩幅が狭いのに、どんどん先を進んでいってしまう。でも、どうせすぐに自分がついてきていない事に不満を覚えて、立ち止まるのだ。
「遅いわよ」
「ああ。どこ行くの」
「いいから、ついてきなさい」
一方的に言い放って早足で歩く紅子に肩をすくめる。その容姿と相まって、女王様的態度がやけに板につく。
でも、そんなに拗ねた顔で言われても、女王様には見えないんだけどね。
細い道に入っていく後ろ姿についていく。この辺りまで来ればもう目的地は分かったも同然だ。
大人ぶってはいるが、紅子も中森さんとあまり変わらない、高校生だ。
人前では大人ぶっているが甘い物が大好きだし、かわいいものが大好きだ。日頃は隠しているせいか、ストレスがたまったりするとこうして圭を連れてお気に入りの喫茶店に向かうのだ。
表通りに面していない喫茶店ばかりを選ぶ所が、またかわいらしいと圭は思うのだが。
ぴたりと行きつけの喫茶店の前で立ち止まった紅子に苦笑して、圭はドアを押した。
さて、溜まりにたまった愚痴を聞きましょう、お姫様。
17
「将来の夢?」
「そう! 宿題でね」
絵をかく事になったの、とニコニコ笑う姪っ子は年相応でかわいらしい。
こども特有のつやのある髪を優しく撫でた。
「歩美ちゃんの夢は何?」
「え〜」
少し恥ずかしそうに頬を染めた姪っ子に、圭は何となく想像がついた。
ちらちらと向けられる視線の先には江戸川コナン、もとい工藤新一。
それはやめておけ、絶対苦労する上に成就しないぞ、と圭は心の中で激しく反対した。
だってそうだろう。相手は高校生なうえに毛利蘭というほぼ確実に彼女といえる女の子が存在する。
ヒロイン役が決まっているのだ。
「歩美の夢は……お嫁さん!」
ああ、やっぱり。
思わず天を仰ぎそうになった。
「圭くんの夢は?」
「俺?」
「うん」
夢と言われても、非常に困るのだが。なにせ就職経験もある圭だ。今さらなりたい物なんて思いつかない。
漠然とだが、この世界でも似たような職につくだろうと思っていた。
だってそうだろう。専門知識があって経験もある。きつい仕事だが、圭は別に苦ではなかった。
ライダーとしての才能は、圭にはなかった。
リンクチューナーとしての才能は、人並み以上にはあったが、この世界では使い物にならない。
「んー、まあ、普通に就職して、嫁さん貰って静かに暮らす事かなぁ」
「……じじくせぇ」
「なんとでも言ってくれ」
悪いけど、頻繁に死体とご対面、なんていう生活は断固拒否したい。ぽんぽんとコナンの頭を撫でて、僅かに体重を傾けた。
少し錆び付いたブランコがキィ、と音を立てる。革靴の代わりに身につけたA.Tはもうだいぶ摩耗していて、そろそろ部品の交換時かもしれない。
家に帰ったら、新しく組み直そうかなぁ、とそれを見遣った。
「哀ちゃんは? なにか決まってるの、将来の夢」
「私は……」
なんとなく、化学者とか、その辺だろう。お医者さんとかもありかもしれない。
哀ちゃん頭良いからなーと圭は哀に笑みを向けた。
しかし、圭の予想に反し、哀の顔は困惑気味だ。
口元に手を当てて何事か考え込んでいる。
「……哀ちゃん?」
「そうね……私も、お嫁さん、かしら」
「……」
あれ、と思わず首を傾げた。ちらりとコナンの方に視線を向ける。コナンもまさか哀ちゃんがそんな事を言い出すとは思ってなかったのか、目を見開いていた
まさかこんな所でライバル宣言か? と内心ヒヤヒヤする。
でもたしかに哀ちゃんとコナン、最近結構いい雰囲気だもんなー、と姪っ子の前途多難な恋愛事情に苦笑した。
「……哀ちゃんは……誰か好きな人とかいるの?」
おっとここで歩美ちゃんの果敢な挑戦! 子供ってマジで直球勝負だなぁ、とその急展開ぶりに圭は顔をこわばらせた。
もちろん、哀ちゃんは大人なので、うまく交わしてくれるとは思うのだが。
事の成り行きを見守っていると、哀ちゃんの視線が圭へと向いた。嫌な予感がする。
「……圭くん」
ぎぃ、とブランコがひときわ大きな音を立てた。いや、素直にコナンと言われるよりは何倍もマシだとは思うが。
しかしここは話を合わせておくべきだろう。
「……ありがと、嬉しいよ」
「じゃあ、私のことお嫁さんにしてくれる?」
かわいらしく小首をかしげた哀に、かわいいなぁ、とどうでも良い事を考えた。
「んー、哀ちゃんが18になって、そのときまだ俺のお嫁さんになりたいって思った時はいいよ」
「本当ね? 約束よ?」
「うん、約束」
絡めた小指は小さくて、なんだか懐かしい思いがした。
18
一番近いから、というどうしようもない理由で、圭は帝都大に進学した。
ラッキーだったと思うのは、見ていて飽きない黒羽も同じ大学だったことだ。
本当は大学に進む気はなかったのだが、母が大学ぐらい行っておきなさい、と言うので、仕方なく。
正直な所を言うと、もうこれ以上勉強はしたくなかったのだが。
意味もなく理学部を選んだのは、どう頑張っても自分に文系は無理だからだ。
情緒、というものが自分にはかけているらしい。
震えた携帯に視線を落とすと、幼馴染みからのメール。
短いメールを見て、圭はその足をカフェテリアへ向けた。遅くなると紅子はうるさい。
中に入ると、すぐにその後ろ姿を見つける。意外だったのは、その隣に黒羽の姿があったことだ。さらにその隣に、同じ顔。
紙面を騒がすその顔を、圭が知らないはずもない。
「紅子」
「圭。遅いわよ。カフェラテ、ホットで」
「はいはい。黒羽は? 何にする?」
呼びつけられて一言目がこれ。普通の人なら怒る所だろうが、これは紅子なりの甘えというやつだ。誰にでもやるわけではない。
そう考えると、無茶なわがままも叶えてあげたくなるというものだ。
「や、俺は別に……」
「おごってやるから気にするなよ。コーヒーで良い? あとそっちの彼も」
「いや、そういうわけには……」
「問答無用、コーヒーな」
日本人らしい遠慮のしあいは無用だ。せっかくだから巻き込んでやろう、と圭は飲み物を買いにいった。
戻ってきた圭は、カフェラテを紅子の前に、コーヒーを三つテーブルの上に置いて、空いている席に腰を下ろした。
「黒羽、紹介してよ」
「紹介って言っても……工藤新一」
言わなくても誰か分かるだろ、と言った様子でお座なりに黒羽が口を開く。
柚木崎圭と名乗った男の顔は、嫌というほど知っている。
コナンであったときに何度か顔を合わせた。そして、あまり認めたくはないが、新一は彼に対して苦手意識があった。
黒羽と親しげな様子から、彼が怪盗キッドだという事も知っているのだろう。
「よろしく、工藤」
「ああ……よろしく」
もらったコーヒーに口を付けるふりをして視線をそらす。何もかも見透かしているような眼が苦手だ。
耳がいい、とかつて言っていたが、さすがに声変わりしてしまえば、自分がコナンなどと気づきもしないだろう。そもそも、大人が子供になるなんて現実離れした事を、考える人間なんてそういるものではない。
柚木崎の幼馴染みだと言う女の子は、魔女、と言うだけあってすべてばれているようだが、口にする気はないらしい。
魔女って、非現実的な響きだ。ただ、数年前に小学生になるという不思議体験をした後なら、多少の不思議は許容範囲だ。
「……黒羽と柚木崎は、どういう関係なんだ?」
「あー……高校のクラスメイトだよ」
歯切れ悪く黒羽が口を開く。柚木崎は答える気がないのか、背もたれに体を預けてコーヒーをすすっていた。
自分に全く興味を示さない柚木崎に、新一は少しだけ安堵した。
まだあついコーヒーに口をつける。ぽん、と両肩に置かれた手に、体が過剰に反応した。
「くーどお!」
「っうわ! は、服部か」
「どないしてん、そんなに驚いて」
「うるせーな、お前が急に後ろから話しかけるから……」
近くのイスを引っ張ってきて隣に腰を下ろした服部を睨みつける。
それをものともせずに、服部は新一のコーヒーに手を付けた。
「めずらしいなぁ、工藤が人と一緒におるの」
「人をボッチみたいに言うな」
「そっちの、ずいぶん工藤にそっくりやん。親戚か?」
「違うよ。黒羽快斗、最近知り合ったんだよ。あと、黒羽の友人で、柚木崎と小泉さん」
「ふーん、よろしくな」
にか、と人懐っこく笑った服部に、柚木崎だけが笑顔で返した。
「服部は……確か西の名探偵だろ? てっきり関西にいるものだとばっかり」
「なんや、俺の事知っとるんか。うれしいわ」
「工藤もだけど、服部も有名だろ。次に生まれ変わる時は、俺も関西人になりたいな」
「お、嬉しいこと言いよるな。大阪遊び来たら案内したるわ」
関西人に生まれ変わりたいなんて、妙な事を言う男だな。
僅かな違和感を覚えつつも、新一はそれを大して気に留めなかった。
黒羽が前は何だったんだ? とまるで天気の話でもするかの様に会話を続ける。とても自然な流れだった。少なくとも、新一は大した疑問も抱かずそのやりとりを眺めていたのだ。
「前は……」
黒羽の問いにためらいなく口を開いた柚木崎は、しかし途中で言葉を切った。黒羽に視線を向けて口元をゆるめ婉然と微笑む。
「ああ、もしかして誘導尋問?」
流された視線に、黒羽が口ごもる。それはまぎれのなく肯定の意だった。
新一には分からないやり取りが今の一瞬のうちに行われていた事は確かだった。
一見しては分からないが、この二人は意外な緊張関係にあるようだ。
「圭は以前も都民よ、残念ながら」
一瞬流れた冷ややかな空気を砕いたのは、意外にも彼の幼馴染みだった。当たり前の様に答えた彼女に、「魔女」の二文字が頭をちらつく。
「そうそう、だから今度は別の場所に生まれたいんだよねぇ」
彼女の言葉に便乗する様に、柚木崎が先ほどの表情を収めて無邪気そうに笑む。
どうやら、柚木崎の方が黒羽より上手のようだ。怪盗キッドが同じ年の人間にいいようにあしらわれているのが新一には意外だった。
19
「お前と柚木崎って、単純に仲良しこよしってわけじゃないのな」
「何それ……べつに、男同士なんてこんなもんだろ」
「いや、そうじゃなくて……なんか妙な緊張感があるっていうか」
「あー、いつもじゃねーよ? 今回はたまたま……」
ほんの僅かだが、「次に」という柚木崎の言葉に、引っかかるものがあった。
快斗から見て柚木崎は、いつも年上のような感じがする。分からない事も、不振な所も、いくつもあった。
高校からの付き合いだが、はじめてキッドの姿であった時から既に正体がばれており、危ない所を助けてもらった事もある。
どんなに変装をしても一目で見破られ、快斗としてはやりにくいことこの上ない。
だから、とっさに閃いたのだ。柚木崎には前世の記憶があるのではないか、と。バカらしいが、なんだかそれがとてもしっくりきた。
だから、何でもないふうを装って聞いてみたのだが、もしかしたら少し踏み込みすぎたのかもしれない。
考えが読まれてるんだよなぁ、とすっかり冷えたコーヒーに口をつけた。
結局あの後、紅子に引っ張られる様に柚木崎は帰ってしまった。もちろんすでに服部の姿もない。
彼とは、出来ればあまり仲良くなりたくはないのだ。
別に他意はない。ただ、自ら危ない道をわたる事もないと思うのだ。怪盗がそうそう探偵と仲良くなるものじゃない。
名探偵には貸しもあれば借りもある。自分が黒羽快斗であるときに怪盗キッドとして扱う事はないのだろうと、妙な信頼感があった。
20
ベッドの上で本を読んだり、勉強したりして時間をつぶしながら、真剣にパソコンの画面や書類をのぞく圭の姿を横目で見つめる。
体を起こしてそっと後ろから近づいた。
以前から、勝手が悪くないかと疑問なのだが、圭の部屋には机がない。
床にパソコンを置いて作業をしている。ほとんどつけられる事のないテレビも床の上だ。
後ろに腰を下ろしてお腹の当たりに両手をまわした。丸まった背中に体重を預ける。
「哀ちゃん?」
「圭くん、ご飯作ってあげようか」
「ありがたいけど、俺これ終わるのいつになるか分からないよ?」
「いい、待ってる」
今日は博士が留守だから、と猫の様に甘える哀に、圭は苦笑した。
いったいどうして、ずいぶんと懐かれたものである。
4月にようやく中学生になった哀は、私服からセーラー服になった。
少しだけ大人っぽくなったとも言えるが、まだ幼さの方が勝る。
瞳に宿る知性はもちろん中学生のそれではなかったが。
彼女と小学生生活をともにした探偵は、既にもとの姿に戻り、今では立派な社会人だ。
だから、子供の姿である事を望んだのは、哀本人なのだろうことは想像に難くない。
大学卒業後、悩みつつも生活能力皆無な母親とはなれて一人暮らしを選択した圭は、都内に部屋をかりた。
別段広くはないが、キッチンとは別に部屋がある、いわゆる1DKで、圭にして見れば十分な広さだった。
もともとあまり物に執着のない圭の部屋には物が少なく、前述した通り、リビングには机すらない。
ダイニングにあるものだけで十分だというのが圭の持論である。
部屋にあるのは、飾り気のないパイプベッドと、専門書や書類を収める本棚くらいだ。服は、もとよりクローゼットに収まる分しかない。
哀が中学に上がってから、この部屋に入り浸る時間が増えた。
本来なら、授業に部活に忙しく時間をとられ、足が遠のく所なのだが、おかしな話だ。
哀ちゃん、ちゃんと学校でうまくやれてるのかな、と少しだけ心配になる。
コナンが去った後、学校では彼女の秘密を知る人間はいない。歩美も光彦も、ゲンタも、正真正銘の子供だった。だからこそ、ここに入り浸っているのでは、と考えるのは圭の考え過ぎだろうか。
実際の所を言えば、それは圭の杞憂だった。
彼女はそれなりに退屈な日常を享受していたし、中学生になった事で、行動の制限が緩くなったことを喜んでいた。
高校生になればもっと緩くなるだろう。
そうすれば、もっと一緒にいられる。圭の背中に頬を寄せながら、哀は満足気に笑みを浮かべた。
いまだに異性として見られていないのには困ったものだが、それゆえに許される行動も多々あり、複雑な心境だ。
普段は厳しい圭も(基本的にお泊まりはNGだ)博士が留守のときには心配してくれているのか、哀に甘くなる。
暗黙の了解として、博士が留守の時は圭の家に泊まる事になっていた。
思う存分圭の体温を楽しんで、仕事の邪魔にならない様に哀はそっと立ち上がった。
この部屋のキッチンはもう慣れたものだ。エプロンをつけて冷蔵庫のまえにしゃがみ込み、ドアを開く。
作り置きのおかずと、いくつかの食材。
何にしようかとドアを閉めて、哀は炊飯器をセットするために立ち上がった。
ざあざあと降る雨に圭は顔を上げた。時計を見ると既に7時を回っている。
いい加減床の上に座っているのも疲れたので、ベッドの上に移動する。
だらしなく壁に上半身を預けてノートパソコンを膝の上に乗せながら圭は仕事のメールを打っていた。
「ま、こんなもんか」
こんなもの、というのはメールの文面の事でもあったし、本日の仕事内容の事でもあった。
つまり、ようやく一段落。
ふー、と息を吐いてまぶたを閉じる。じっとしている、というのはある種動き回っているよりもつらいと、圭は思う。それと同じく、この仕事は眼に負担がかかる。
仕事中の瞬きの少なさは圭自身気づいている事だった。過去に他人に指摘された事も何度か。
先輩って全然瞬きしないですよね! と職場の後輩にしきりに感心されたのを覚えている。全くの無自覚だったので、それ以降気にする様になった。
ベッドの沈む感覚に眼を開ける。
覗き込む様に顔を近づけていた哀と目が合った。
「あ、起きてた?」
「うん……仕事終わったから、眼を休めてた」
「圭くんは、近いうちにドライアイになりそうだね」
圭の顔から眼鏡を奪った哀は、くすくすと笑った。
わずかにぼやける視界。視力は、まだそんなに下がってはいない。まあ、いずれもっと悪くなるだろう。
圭ののばした足をまたいで膝立ちになっている哀に、注意すべきかどうか悩む所だ。
そういうことを考える方が嫌らしい、という説もある。
短いセーラー服のスカートからのぞく太ももが、非常に眼に悪い光景だ。
いや、残念ながら中学生に欲情する趣味は持ち合わせていないが。
でも中身はそれなりに大人な訳であって、えーとつまり、ちょっと無防備すぎない?
疲れてまわらない思考回路で、ああでもないこうでもないと考えていると、じりじりと哀が間合いをつめてきた。
「哀ちゃん?」
すとん、とそのまま圭の足の上に体重を落とした哀に圭はパソコンを閉じて脇に置いた。
この体勢はつまりあれですね、話があるから、顔を貸せ、と。
もの言いたげに上目遣いで視線を寄越す哀に、観念して、圭は話を聞く体勢になった。
じっと哀が口を開くのを待つ。こういう時は、比較的圭にとってありがたくない話の事が多い。
抱きつく様に圭のシャツをつかんで、胸元に頭をぐりぐりと押し付けてくる哀に、圭はされるがままになった。
「……お嫁さんにしてくれるっていったわ」
「18になったらね。まだ中学生でしょうに……あと、男相手にこんなことするもんじゃないよ」
というか、あれは冗談じゃなかったのか?
もう何年も前に交わした約束を思いだす。そういえば、戯れにそんな約束も交わしたか。
これ、完全にからかわれているだろう、と天井を仰いだ。
「あなただからしてるのよ」
「はいはい」
「もう、信じてないわね」
それは、あの頃の哀とコナンを見ているからだ。
「中学生に手出したら犯罪だからね」
ぽんぽん、とその栗毛を撫でると、顔を上げた哀がむくれる様にほおを膨らませた。
「さて、ご飯食べよっか?」