統一される意識

side-b

となりに腰を下ろしたルームメイトは、幼さの残る顔に笑みを浮かべてクッキーと紅茶を取り出した。
ポットから熱い紅茶がそそがれ、あたたかな湯気がその香りを運んだ。
こういうとき、彼女はとても楽しそうだ。
部屋にいるときもよくこうしてお茶を入れてくれる。
年の割に小さい体に長い黒髪。ガラス玉のような黒い瞳がアンジェリアのお気に入りだった。
こうして1日に1度は開かれるお茶会も、アンジェリアのお気に入りの時間なのだが、今回は多少様相が違った。
なぜなら、いつもはいないはずの人間が3人もいるからだ。
はあ、とため息をついた自分に、唯が少し申し訳なさそうな目を向けてくるが、彼女が悪いわけではない。
きっと、そういっても分かってはもらえないだろうけど。
「ミス・キングはご機嫌斜めのようだな」
「そりゃあね、邪魔者が3人もいればため息の一つもつきたくなるわ」
「……ごめんね? キング」
「唯が悪いんじゃないわ。乱入して来たこいつらが悪いのよ」
アンジェリアの言葉に更に唯が申し訳なさそうな顔をしてリーマスとセブ君を招待したのは私なの、と告げる。
その子犬のような仕草に胸を打たれ、先ほどと同じくあなたは悪くないのよ、ともてる最大限の優しさで返した。
「それにしても意外ね。唯が彼らと知り合いなんて」
リーマスの方にちろりと視線を向ける。特に有名なのはジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックだが、いずれにしてもアンジェリアは悪戯仕掛人達が好きではない。
チャラチャラしてるのも騒がしいのも、なにより子供っぽいのも好きではないからだ。自分の周りが彼らの話題ではしゃいでいるとうんざりする。
その点、自分のルームメイトの口からその話題が一度も出たことはなく、てっきり唯も自分と一緒で彼らに良い感情を抱いていないか、興味がないかのどちらかだと思っていた。
まあ、今朝のやり取りを見る限り向こうが一方的に絡んで来ている感じはしたが。
「不可抗力よ。それにしても……もしかして、キングは彼らのこと、その……」
苦手だった? と言外に聞いてくる唯にしっかりうなずいてみせると、少し困ったような笑みが返って来た。
「気にすることはない、ミス・キングは昔から好き嫌いが激しい」
優雅に紅茶を飲みながらにやりと嫌な笑みを浮かべたルシウス・マルフォイは非常に認めたくないが、おそらく世間一般的に言えば幼なじみにあたる。
純血同士だからその辺はコネクションが強い。
「うるさいわよ、ルシウス。だいたいあなた、女性の扱いがなってないのよ。あと、そちらの方は紹介してくれないの?」
セブ君、と唯は呼んでいたがアンジェリアはその少年とは実は初対面だった。
何とも陰気くさいというか、ルシウスの知り合いにしてはずいぶん毛並みが違う。ただ、話だけは何度か唯の口から聞いている。
彼女はこの後輩君がお気に入りなのだ。
「私の後輩のセブルス・スネイプだ」
「……はじめまして」
「ついでに僕も自己紹介させていただきますね。グリフィンドールの1年、リーマス・ルーピンです」
ぼそりと言葉を発したスネイプとは対照的に、人好きのする笑みを浮かべて右手を差し出して来たルーピンのそれを礼儀的に握り返した。
正直わざわざ自己紹介してくれなくても知っていたが、礼儀正しいところは好感が持てるだろう。
浮かべている笑みが何ともうさんくさいのが玉にきずか。
「セブ君、甘いもの大丈夫だった? 一応控えめなのをもって来たつもりなんだけど……」
「……大丈夫です」
ルシウスなんてそっちのけでスネイプを構い倒す唯は、ある意味すごい。ルシウスはいい気味だと思う。彼の偉そうな態度は昔から気にくわないと思っていたのだ。
だから彼がないがしろにされるのは少し気分がいい。我ながら性格が悪いと思う。
食事時ではない大広間はがらんとしていて、ぽつりぽつりとしか人の姿が見えない。
レイブンクローのテーブルの端の方を陣取って集まった面子はなかなかに目立つものだが、そもそも人がいないので静かなものだ。
しかしそうはいっても広間は広間。こんなにオープンな場所を選んだ唯は結構度胸が据わっている。自分なら、ミーハーな子達に見られると後々面倒なのでこんな場所は考つきもしないだろう。
灯台下暗しというやつか。

「チョコレートもあるからね、リーマス」
見た目からすると妹タイプなのだが、唯は意外と面倒見の良い姉御タイプだ。その少女めいた外見と、意外と男気あふれる内面のギャップにときどきびっくりする。
もちろんすごく女の子らしいとは思うのだが。
横目で彼女達のやり取りを眺めていると、それに気付いた唯が笑顔でクッキーを差し出してきた。
それを受け取って頬張ると上品な甘さが広がる。安っぽい甘さもアンジェリアは大好物だが、こちらの方がなじみがある。
唯とそう言う話をしたことはないが、話し方や身のこなし、こういう何気ない食べ物の好みからそれなりに良いところの出だろうということは容易に想像がつくし、だいたい純血でなければルシウスが興味などもたないだろう。
ルシウスとプライベートで仲良くするなんてまっぴらごめんだが、今日のところは楽しそうな唯に免じて許してやろう、とアンジェリアはクッキーに手を伸ばした。


そう言えば、うちはハロウィンとは無縁の家庭だったな、とアルファードは手紙を読みながら思いいたった。
そう言うイベントにアルファード自身が興味ないこともあってたいてい何もせずに過ごしている。
反対にユリシーズはこういうイベント事が大好きなので時々付き合わされたが。
ホグワーツにいる間はハロウィンを一緒に過ごすことはないだろうが、一緒に過ごすときはジャックランタンくらい用意するか、といつかくる未来を想った。