さしだされる優しさ
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「気分は?」
わずかに血の気の引いた頬を暖めるように手のひらを添える。
見つめ返す瞳はしっかりと自分を捕らえていて幾分安心した。
「…大丈夫です。ちょっと、立ちくらみがしただけで、もう直りました」
「今日はもう帰るか?」
アルファードの言葉に、唯はふるふると首をふった。
個人的には今日のところはつれて帰りたいのだが、まともに外出した事のない唯にとって、このまま何もせずに帰るのはつまらないだろう。
「分かった。その代わり、気分が悪くなったらすぐに言いなさい。
紅茶でも飲んで、その顔色がもう少しよくなったら制服を見に行こう」
こくこくとわずかにうれしそうな表情でうなずいた唯に、知らず笑みが漏れる。
もう唯が嫌がらなくなったのをいいことに、アルファードは唯を抱えたまま喫茶店へと足を向けた。
はぐれたときに不安な思いをさせたせいか、しっかりと自分の首にしがみついた唯の頭をそっとなでた。
年に似合わぬ作った表情。
それは自分にとってひどくなじみのあるものだった。誰も彼も、自分の前ではそういう表情をする。
否、「ブラック」の前では。
ルシウス・マルフォイ
知った顔だった。それは向こうも同様だろう。
はぐれた唯のそばにいた少年のことを思い出す。2人の間にどういうやり取りがあったのかは知らない。
ただの親切心、ということはないだろう。
過去に何度かあった事のある少年は、年の割りに大人びた、良くも悪くも純血らしいスリザリン生。
きっと彼はこれから先も変わることなくあのままなのだろう。
別にそれが悪いとは思わないし、ブラックとてたいして変わらない。皆、同じ道を歩んでいくのだ。
ときどき、自分のようにそれに疑問を抱いてしまったものだけが、どこにも行けずに立ち止まる。
ただ、それに唯をかかわらせたくない。
自分とかかわりがあることで、変な興味を持たせてしまったかもしれない。冷静に考えれば分かることだが、さっきはそこまで頭が回らず、ほとんど無意識ともいえるはやさで彼の目から唯を隠してしまった。
厄介なことにならないといいが…と顔をしかめつつも、それを悟られないように手を動かした。
喫茶店の奥、日のあたらない場所に陣取って紅茶とケーキを頼む。
ここに来てようやく、アルファードは唯を覆っていたローブをとった。
「大分顔色がよくなったな」
ぼさぼさになった髪を整えてやりながら、わずかに赤みの差した頬に触れる。
体温が戻ってきたようで、先ほどのような冷たさはなかった。
運ばれてきた紅茶とケーキを目の前においてやると、唯がちらりとこちらをみやる。
もう一度促してやると、「いただきます」と軽く手を合わせて紅茶に手をつけた。
以前ほどではないが、唯は今でも時々そうして両手を合わせる。そこに彼女の過去を垣間見るけれども、問いただしたことはなかった。
知りたくないと言えば嘘になるが、知ってしまうのは億劫だった。
知ってしまえばこのまま唯を手元に置いておくことができないと、分かっている。
だから、彼女が何も言わないのをいいことに、自分は何も詮索せず、人の目にも触れさせず、ただ甘やかして手元においておくのだ。
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