見えない本音
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舞い込んだ一通の手紙に、アルファード・ブラックはその秀麗な顔をわずかにしかめた。
裏を返すと、「H」の文字。
もうずいぶんと昔、自身も受け取ったそれとまったく変わらぬ白い封筒。
考えなかったわけではないし、悪い話ではない。
ただ、なんとなく。
「で、お前は何がそんなに気に入らないんだ?」
ホグワーツからの入学許可証を片手にやってきた友人の表情に、ユリシーズは首をかしげた。
「別に…」
「別にって顔じゃないだろう。何年の付き合いだと思っているんだ」
親しくない人間なら気づかないような変化だが、彼と自分は学生時代からの付き合いだ。分からないはずがない。
無表情であることが多く、冷静なアルファードだが、その実感情はストレートで自分に正直だ。
なかなか口を割ろうとしないアルファードに、ユリシーズはため息をついた。
「悪い話じゃないよな…」
アルファードからの返事はないが、聞いているわけではないから構わない。
人間の思考をトレースするのは、相手を知っている場合不可能なことではない。
実際、自分の考えはアルファードや妻に読まれていることが多いし、自分も彼らの考えを大体は分かっているつもりだ。
とりあえず、ユリシーズは順を追って考えることにした。
発端は、自分の目の前にある手紙。ホグワーツからの入学許可証。別に悪いものでも怪しいものでもない。
これが届いたということは、唯には魔力があるということ。これも問題ない。
いろいろと入学に向けて準備をする必要がある。
これも、裕福なブラック家の人間なら全く問題ない。ちょっと腹が立つくらいにアルファードは金持ちだ。
入学は9月。
1年の大半をホグワーツ生は学校で過ごす。
「………まさか、手元においておきたい、とか」
なーんてな、と自分の考えを笑い飛ばそうとしたのに、無表情のままのアルファードにそれは叶わなかった。
それは、図星を指されたときの表情だ。
「………」
無言で頭を抱えたユリシーズに、アルファードが慌てて口をひらく。
「別に、変な意味はないぞ。ただ少し心配なだけだ。変なのに目をつけられたらどうする」
「お前は…どこの親バカだ。そうそうホグワーツ内で犯罪が起こってたまるか。それに、いざとなったら俺もいるだろう」
自身もホグワーツで教鞭をとっているユリシーズは、友人の過剰ともいえる保護者的台詞に脱力した。
果たしてこの男はこんな性格だったろうか。
どちらかと言うと人嫌いで、他人には興味がないほうなのに。
「あんなガキどもの集まり、危ないに決まっているだろう」
「むしろ危ないのはお前だよちくしょう」
もうどうすればいいのか。ユリシーズは投げやりにいって身体を深くソファに沈めた。
ホグワーツの入学許可証が来たということは、魔力があると言うことだ。
魔力があるのなら、きちんとその使い方を学んだほうがいい。
ホグワーツは彼も自分も学んだ場所だと言うのに、その口が危険だとほざく。
誰かこいつをどうにかしてくれ、と匙を投げたところで最愛の妻、アイリーン・ベルが紅茶とクッキーを運んできた。
その目が、机の上におかれた封筒に留まる。
「あら…懐かしいわね、ホグワーツの入学許可証?」
その問にアルファードは無言で、ユリシーズはため息で返した。
それに首を傾げつつもアイリーンは手紙を手に取り中身を確認する。
「まあ、唯のね。やっぱり魔力があったんじゃない」
おめでたいわ、と笑顔で言うアイリーンにユリシーズは苦笑いをした。
しかし妻はそれに気づいたのか気づかなかったのか、嬉々として口を開く。
「色々そろえなくちゃね。制服とか杖とか。あと普段着もそろえてあげなくちゃ。あなたたちじゃ頼りないから、私が行ってあげるわ。服とか下着は女同士のほうがいいでしょうしね」
今にも出かけてゆきそうな口調にアルファードが焦りだしたのが手に取るように分かるが、このくらいしないと彼の重い腰を上げるのは困難だと判断してユリシーズは沈黙を守った。
アルファードの手が彼女を止めようと宙をさまようが、彼女の口を挟ませぬ早口にうなだれるしかない。
「…せめて制服の採寸は私に行かせてくれ」
彼の必死の願いにユリシーズはその肩をぽんぽんとたたいてやった。
自分に娘はいないが、いたらきっと彼と同じ言葉を吐いただろう、と。
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とアルファードが帰った後に笑顔で言ってのけた妻に、やっぱりか、とユリシーズは渇いた笑いを漏らした。