空蝉-19-

チャクラ刀にオーラをまとわせる。
ほんのわずかな量で、それは深々と岩に刺さった。やはり、気のせいではない。
「……切れ味よすぎじゃないの」
これは、大変省エネ設計だ。


ソードブレイカー、という物を使った事はないのだが便利そうだと思った事はある。
なぜならほとんど武器を使わない尚樹の保護者が唯一持ち歩く武器だからだ。なんだか妙なあこがれがある。
チャクラ刀がほしい、と二代目にお願いしたらどんなのが良い、と聞かれてとっさにそれが浮かんだ。
少し時間はかかるが用意してくれるといった二代目に、申し訳なく思いながらも楽しみだなー、と地味に任務をこなしていた。
そして待つ事2週間。ようやくチャクラ刀が尚樹の元に届いたのだ。
尚樹の持つ武器の中では、短刀とはいえ一番刀身が長く、クナイや千本を収めているホルスターにはしまえない。
腰に下げるとホルスターと干渉する。
小さいからだって不便、と尚樹はそれをさやにしまった。
「背中につけたらどうだ」
というか、ソードブレイカーは左手で使うものだぞ、と二代目は当然のように右側に付けようとする尚樹に突っ込んだ。
二代目の言葉に、何かに思いいたったのか、尚樹がポンと手の平を打つ。
その様子からソードブレイカーを使った事がないんだろうと容易に想像がついた。
それなのになぜその形状のチャクラ刀を要求したのかは謎だが。
「からうんですか? でも俺そんなに体柔らかくないから、鞘から抜くときにどっかいためそうなんですけど」
「かせ」
鞘ごと受け取って扉間はそれを腰のベルトに固定出来るようにしてやった。横にしていれば、刀身の短いチャクラ刀だ、それほど抜くのに不都合はないだろう。
一応、左側に柄が来るようにする。
「どうだ、抜けるか」
「はい、ちょうどいいくらいです」
試しにチャクラ刀を出し入れして尚樹はその感触をたしかめた。いつもとは位置が違うが、これはこれで良い感じだ。ただし、左手で短剣を握るという違和感はぬぐえない。
両刃の片側が櫛状になったそれは少し頼りなくも見える。
使い方練習しないとなー、と独特の形状をした刀身に目をやった。
ぽす、と大きな手が頭を撫でる感触。なんとなく、ゼタさんに似てるよね、二代目、と遮られた視界から、変化の乏しい表情を盗み見た。
その視界を遮るように何かかが頭にのせられる。
それを手に取って、尚樹はぱちぱちと瞬きをした。
「……鳥」
「いつまでも待遇保留というわけにもいかんだろう」
それはつまり、下忍じゃなくて暗部として働けってことですね、二代目。
見慣れた鳥の面をかぶると久々の狭い視界。
「なくすなよ」
「……善処します」
それに関しては前科一犯です、二代目。

ひょろりとした男だった。
烏の面を着けた男は、腰に刀を固定し、下げたホルスターには僅かばかりのクナイと、通常ではあまり持ち歩かれる事のない千本がのぞいている。
巻物の類いはなく、ひどく身軽な格好をしていた。
任務内容は暗殺で、相手は砂の抜け忍だ。何故砂かと言うと、同盟とかその辺の関係である。詳しくは聞かされていない。あまり詮索するな、という意味だ。
今回が初めてだから、連れて行ってやれ、と二代目にいわれてヒルゼンは彼と行動をともにしていた。
人並みに動けるはずだが、一応様子を見ておいてくれ、とそういわれた。
見た事のない忍びだ、というのがヒルゼンの第一印象。忍びというのは数が多いように見えて、意外と少ない。
下忍は確かに多いが上忍ともなると、全く見た事もない人間というのはほとんどいない。暗部も然りだ。
だからこそ、目の前の人物は得体の知れないものだった。
「とりあえずターゲットを見つけないと話にならないな。顔は覚えてるか」
ヒルゼンの問いに、男は首を縦に振った。最初にリュークと名乗った以外、今のところ声を発していない。
ターゲットの位置は、だいたいつかめている。この先の土の国で目撃情報があった。
おそらくそれほど移動はしていないと見える。理由は単純で、足に怪我を負っているせいだ。
「一度土の国を調査して、それからあとの事を決めよう」
二手に分かれてターゲットを探す事にする。時間になったらまたここで落ち合うと決めてその場を離れた。
一方その場に残された尚樹は面の下で考えた。正直に言うと、この場を離れたら戻って来れる自信がない。頼りの夜一も今はいない。
ターゲットを探すとはいっても、二人で探してそう簡単に見つかるとも思えない。
この仕事、面倒だなとため息をついた。
手っ取り早くすませるなら、さっさと見つけてその場で暗殺してしまう事だが‥‥尚樹一人ならばターゲットを探さずとも殺す事は可能なのだが、同行者がいる上にこれは任務だ。結果を見届けなければならない。
尚樹は手の中に小さな羅針盤を具現化した。以前尋ね人ステッキを具現化したら、ものすごく間違った方向をしめされた事があるので却下である。というか、ドラえもんの道具は何かしら欠陥があるので、使う時は何気に注意が必要である。
くるりと回って羅針盤が西を指した。
ターゲットを見つけても一人では動かない、という約束だったがそんな事などすっかり忘れて尚樹は羅針盤の示す方向につま先を向けたのだった。