空蝉-17-
「自来也、危ないから、一人で先に行かない方が良いよ」
「平気だって」
制止の声も聞かずさっさと先に行ってしまう自来也に、尚樹は歩調を変えずについていく。
空はどこまでも青く、風はからりと乾いていた。
夏の日差しは強く、ここ数日続いた晴れ間に地面は乾いて少しホコリっぽい。
久々の遠出に、尚樹はゆったりとした足取りで進みながら、油断なくまわりに視線を巡らせた。
別に警戒しているとか、そんな立派な理由ではなくただ単に恒例の毒草探しだ。
以前は黙っていてもシルバやゼノがもってきてくれていたが、ここに来てからは自己調達だ。
当たり前だが、毒物を気軽に恵んでくれる人間なんていない。
一人先を進む自来也に、綱手が声をかけている。隣を歩く大蛇丸はそんな二人の事などどこ吹く風とばかりに尚樹と同様周りに気を配っていた。
7班でいうと、自来也がナルトで、綱手がサクラ、大蛇丸がサスケと言った所か。
ん? じゃあサスケも将来変態に? と考えてすぐにその思考を追い払った。
考えただけで悲しくなるのでやめておこう。
なんか色々懐かしいなぁ、と空を見上げて地面を見た。
道の端にある水たまりに、ちらりと視線をやって、まさかね、と視線を戻す。
控えめに円を広げて軽く人の気配を探る。その端にかかった気配に、尚樹が呆れて乾いた笑みを浮かべたのも無理はない。
時代が変わっても、間抜けな忍者はいるらしい、と手をホルスターにのばした。
一瞬にして眼前に現れた忍びに、躊躇せず千本を打ち込む。
念で覆ったそれは抵抗もなく相手の体を貫通した。
「自来也! 戻れ!」
一人離れた自来也に三代目が声をかける。既に標的は自来也へと変わっていた。
クナイとクナイがぶつかる音が鈍く響く。
かろうじて敵の攻撃を食い止めた自来也は、突然の事態と相手の殺気に足が震えた。
自分のクナイを押し返していた力がふっと軽くなり、その反動で思わず地面に尻餅をつく。
相手の体が横に吹っ飛んで、急に視界が開けた。
一瞬の事だったが、相手の首元にみえた足から尚樹が助けてくれたのだと瞬時に理解し、相手が飛んでいった方に目を向ける。
すでにその首にはクナイが突き立てられ、絶命している事が確認せずとも分かった。
尚樹の姿はない。
綱手達の方に視線を向けると、もう一人はヒルゼンに拘束されていた。
大蛇丸の隣に尚樹の姿を認め、その右手の赤い斑点に目がいった。
自来也が起き上がってきたのを認めて尚樹が駆け寄る。目の前に差し出された左手に血は付いていなかった。
「自来也、怪我はない?」
動こうとしない自来也に尚樹が首を傾げる。あわててその手を取って、立ち上がった。
そのまま手を引かれてヒルゼンの元まで歩く。
すでに、もう一人の忍びも自害したのか息がない。
「自来也、大丈夫か」
「……はい」
「尚樹、よくやった」
ちょっとやり過ぎだぞ、とヒルゼンが心の中で思った事など、もちろん本人以外に知るすべはない。
それはまあともかく、よくあの水たまりに忍びが潜んでいると気づいたなと頭を撫でてやると、尚樹は何ともいえない表情を浮かべた。
どう見ても褒められた事を喜んでいる様子ではないが、あまり深くは気にしない事にする。
尚樹からしてみれば、こんな晴れの日続きの道に水たまりがあるわけがない、と言うどこかで見たようなシチュエーションであったにすぎない。
「……それより、いったん木の葉に戻った方が良いんじゃないですか?」
忍びが出てくるという事は、この任務のランクがCランクではないという事だ。
これと同じ状況を知っているだけに、尚樹は一時撤退を進言した。どうせ、この後もビンゴブックに載ってるような忍びが出てきたりするんだ、と遠い目をする。
今回のは、巻物をとある人物に届ける、というだけの任務だったのだがそうは問屋が下ろさなかったらしい。
すすんで危ない目に遭いたくない尚樹はじっと三代目の返事を待つ。
ヒルゼンも、ここは一度退くべきだと判断して口を開こうとしたが、しかしそれを自来也が遮った。
これもどっかで見た光景だよなぁ、と尚樹はひとりため息をついて自分のクナイを回収しにいく。
続く言葉は、聞かなくてももう分かる。この後どうなるのかも。
クナイをつかんでゆっくりと引き抜く。
いつも思うが、こう、しっかり使用後の武器を回収するというのは何ともいえない気分だ。
血を相手の服のはしでぬぐってホルスターにしまい、ついでに、右手にとんだ血もぬぐっておいた。
「……お前は平然とし過ぎだろう」
「はあ」
話が終わったらしく、自分の背後に立った三代目に尚樹は振り返って気の抜けた返事を返した。
なんというか、尚樹にとっては悲しい事にもう慣れた事態であって、今更驚く事でもない。
むしろ最近はこれでも平和な方。
いつのまにか波瀾万丈な人生送ってるなー、自分、と他人事のように過去を振り返った。
この後はもちろん、どこかで見た様な光景がさんざん繰り返された、とだけ記しておこう。
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