次に会う約束をしよう
試しの門は一番軽い1の門で片側2トン。
ゾルディック家まで実際に来たのはこれで…何度目か覚えていない。
キキョウさんに頼まれて花を持ってくることがあるからだ。実は常連だというのだから、世の中分からない。
でも今回は私用なので手ぶらだ。
門も開けてもらえない(いつもは両手がふさがっているのであけてもらえる)
「ゼブロさん、3人組がここに来ませんでした?」
「やあ、尚樹君。どんな3人組だい?」
ゾルディック家に喧嘩を売るならず者は意外と多いらしい。
命知らずだな、と視界の隅に移るゴミ箱からはみ出た人骨を無感情に見やる。
「釣竿持った男の子と美人な男の人とメガネかけたガラの悪い男の人」
「………ゴン君とクラピカとレオリオのことかな?」
「正解です」
「はは。彼らなら中にいるよ。警備員室に泊まってる」
一応原作どおりらしい。
数日前に偶然にも道を聞くために尚樹の家に立ち寄った3人。
向こうもまさか尚樹の店だとは思っていなかったようで、唖然としていた。
クラピカのびっくりした顔は珍しいなぁと思ったり。
観光バスで行ける、と教えておいたが、ちゃんとたどり着けたかちょっとだけ心配していたのだ。
「中、入っても?」
「ああ、正面からなら誰が入っても文句は言われないさ」
ゼブロの言葉に尚樹は曖昧な笑みを返した。
その「正面」が難しいんですけどね…。
念能力者が皆怪力だと思われるのは困ったものだな、とそびえたつ門の前に立つ。
両手を前に出して軽く押してみた。
もちろん、びくともしない。だが、人間の力では動かないと思われる重さは伝わった。
いやいや待て待て。1の門は片側2トン、合計4トン。
開ければいいわけだから、片門だけ開ければいいんじゃない? それなら俺でも開けられるんじゃない?
姑息にも、両手を片門にあてる。
「よいしょおー」
今度は結構本気で足を踏ん張り、門を押した。
ずるりと足が後ろに下がる。
反作用のほうが大きいことが証明されたな、とくだらないことを冷静に判断した。
所詮半分でも2トンは2トン。凡人にどうこうできる重さではなかったと言うことだ。
なんだかまわりが人間離れしてる人たちだから、ちょっと自分まで常識を忘れかけてた。危ない危ない。
自分の思考回路に行政指導をいれ、改めて目の前にそびえる門を眺める。
さて…どうするか。
なんかいい道具はなかったかなー…。
「相変わらず貧弱だな」
頭の中でアレでもないこれでもないと考えていると、後ろから知った声。
気配をまったく感じなかったが、相手が相手なので特に驚くでもなく振り返った。
「こんにちは、シルバさん。仕事帰りですか?」
小さな後姿が、門前に見えた。
オーラは垂れ流しで一般人のそれと変わらない。
しかし、息子が珍しく興味を示す念能力者だ。
明らかに本気とは思えない様子で門を押し、門に押し返される。
よくよく考えれば、彼があの門をあけたところを一度も見たことがなかった。
「相変わらず貧弱だな」
絶をしたまま近づけば、普段となんら変わらない表情で振り返る。
まるで、初めからそこにいたのが分かっていたと言わんばかりの態度。
事実、子供は自分の存在に気づいていたのだろう。
いつもそうだ。
完璧に絶をして近づいても、気づかれる。
そして、こっちがゾルディックだと知っていてもまったく恐れない。
自信過剰なのか、それとも本当に強いのか、興味深いところだ。
その飄々とした態度を、シルバは結構気に入っていた。
どうぞ、と門の前を譲った子供にあくまでも実力を見せる気はないのかと苦笑をもらした。
軽々と門を開けたシルバの横をちゃっかりと尚樹がついてくる。
「イルミなら今日はいないぞ?」
「ああ、今日は知り合いに会いに来たんです。キルアの友達、らしいですよ」
「その言い方はまるで自分は違うといっているようだな」
「俺はイルミさんの友達なんです」
尚樹に驚かされるのはこういうときだ。
シルバのいささか意地悪な言葉に、尚樹はあっけらかんと答える。けしてフォローを入れない。
淡々として情に流されない性格は、花屋より暗殺者に向いている気がした。
「茶でも飲んでいくか?」
シルバの問いに、尚樹は数秒考えるような仕草をして顔を上に向けた。
「俺の胃、デリケートなんで遠慮しておきます」
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