共同戦線
「っていうかクラピカのターゲットって俺だよね…」
最後の受験生…レオリオが木々の中へと姿を消すのを見送りながら、尚樹は呟いた。最後、といっても正確には尚樹が最後なのだが。
すっかり忘れてたなぁ…と自分のプレートに触れる。
「1番なのに最後に出発って変な感じ」
足を踏み出すと柔らかな草の感触。最後なので特に急ぐこともなく尚樹は悠々とレオリオの向かった方に進む。
目の前に広がる緑に、俺インドアな人間なんだけどな、と尚樹は顔をしかめた。
「千客万来?」
「意味違うだろうよ」
おそらく何人かはスタート地点付近で待ち伏せしているだろうと踏んでいたが案の定だ。
背後に感じる人の気配に足を止める。
尚樹は木の上からこちらを窺うサルに手を振った。
「夜一さん、動物同士で意思疎通ってできないの?」
「無茶いうな。種族違いだ」
「人間と猫も種族違いだよ」
「ああいえばこういう…」
ぼんやりとサルを見上げていると尚樹の背後でがさっと誰かが立ち上がる。振り下ろされる太い木の枝を軽く右に避けながら、尚樹は手の中にこっそり具現化していた物を振り返る要領で横に凪いだ。
適当に振り払ったそれは見事に相手の米神にはいって小気味良い音を立てた。どさりと地面に伏した相手に尚樹は気まずそうに口笛を吹く。
「相変わらずえげつない奴だな…金槌でそんなところを思いっきり殴ったら死ぬぞ?」
「や、別に米神にいれようとしたわけでは…てか金槌じゃない。槌だよ」
「槌は槌だろ?」
「そうだけど…金物じゃないし。イノセンスだよ」
細かい訂正をする尚樹に黒猫ははいはい、と投げやりに答えた。
「それより、そいつどうするんだ」
「ああ…お猿さんの飼い主…サミー? ソミー? なんかそんな名前だったかな…この人は合格しないし、プレートもらっておこう。そのうち役に立つかも」
ごそごそとポケットのあたりを探って118番のプレートを見つける。それを何気なくシザーバッグにしまった。
「さて…どうしたもんか。とりあえずレオリオにポンズの事を教えに行かないとまずいよね。まだそんなに遠くには行ってないと思うし」
よしそうしよう、と意気込んでうるさく威嚇してくるサルを丸まる無視し、尚樹は地面を蹴った。
「…で、誰を探してたんだっけ?」
「…もちろん最初っからキルアを探してたよ?」
忘れないうちに、とレオリオの元に向かったはずの尚樹は、今現在アモリだかイモリだかウモリの後をつけていた。その更に先にはキルア。
あのあと何故かレオリオではなく3兄弟の1人を見つけた尚樹は、そう言えばこいつのターゲットってキルアだっけと思い出した。
思い出したついでに、労せずしてプレートを手に入れる方法を思いついた尚樹。
そのときのわずかな表情の変化から、きっとろくなことを考えていないんだろうな、という夜一の予想は見事に当たっている。
かなり穴だらけの作戦を尚樹は考えているわけだが、もちろん本人はそんなことには気付いていない。それどころか俺って頭いいとか思ってたりする。
そんな尚樹は2人のあとを気付かれないようにこっそり…つけるわけではなく、かなり堂々と歩いていた。
かなりずるくさいが、念を使用して姿が見えないようにしているのだ。
こっそりつけるのが面倒だから、という理由でわざわざ念を使う尚樹に夜一の目が半眼になったのはいうまでもない。
ぼんやりと2人には大して気を払わず、後ろを歩き出して2日目。
ようやくキルアがその足を止めた。
それにあわせて尚樹は近くの木へとのぼり、周りの気配に気を配る。
「まだハンゾーは来てないね」
「…誰だ?」
「頭眩しい人」
尚樹の簡潔すぎる説明に呆れつつも、的確すぎる表現のためにああ、あいつかと夜一は思わず納得した。
「あいつがどうかしたのか?」
「うーん…そのうち来るハズ…あ、来たね」
姿こそ見えないものの、円をしてその気配を感じ取った尚樹はキルアの方に目をやった。
今まで姿を隠していた念をとき、新しく別のものを具現化する。
それをぽんっと頭につけた。
「…頭は大丈夫か?」
「失敬な。ドラ○もんを馬鹿にしないでよね。こんなんでもちゃんと空を飛べるんです」
「誰だよドラ○もんって…しかも物理的に絶対無理だぞそれ。普通に考えてプロペラ一つじゃ自分も回転しないか?」
「ところがどっこいドラ○もんの道具だからそんな物理法則はまるっと無視でーす。
夜一さんって意外と細かいね」
細かくない細かくないと夜一は首を振る。
その動作がくすぐったかったのか尚樹は肩をすくめた。
1人と1匹がそんな会話をしてる間にも、キルアと3兄弟のやり取りは着実に進んでいる。
キルアが腕を振りかぶったところでハンゾーが身構える気配を感じ取った尚樹は、自身もそれに合わせた。
投げられたプレートを追う様に一瞬影が視界をよぎる。それとは反対に飛んでいったプレートを追うべく、尚樹はぐっと木の枝を踏んだ。
そして数秒後に激しく後悔。
「…タケコプター遅い!うう…プレート見失った…」
「アホか…。あの魔法の杖とやらで見つけられないのか?」
「その手があったか………!」
夜一に指摘されて悔しそうにうなった尚樹は、すぐさま近くの木に降り立った。頭の上のタケコプターを消し、手の中に杖を具現化。
すばやく呪文を唱えると、すぐに197番のプレートが手の中に飛んできた。
なんだか釈然としないものを感じながらもそれをシザーバッグにしまう。
「さて次はハンゾーのところだ。タケコプターで行こうと思ってたけどまた具現化するの面倒だし…」
尚樹はキルアの投げた軌道から考えてそれらしい方向に円を展開する。ハンゾーらしい反応はない。
「ダメだな。離れすぎた。仕方ないから適当に姿現ししてその都度探そう」
はたしてハンゾーを見つけて何をやりたいのか、飼い主の意図は計り知れない。
かなりいい加減なことを言い出した飼い主に、夜一は今日何度目になるか分からない溜息をついた。
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ちなみに姿を消してたのは透明マントあたりです参考までに。