共同戦線

403番。
当然といえば当然の数字に、尚樹は深々と溜息をついた。
話は少しさかのぼるが、予定通りぎりぎりでトリックタワーをクリアした尚樹たち5人。
塔から出てきてまず最初に尚樹はトンパを探した。それはもう祈るような気持ちで。
うすうす感づいてはいたが、そこにトンパの姿はなく。
問答無用でくじを引かされ、船に乗る直前にリッポーにプレートを渡せと言われた。
素直にそれに従った尚樹は、次の瞬間試験官の行動に内心でどうなのそれ、と突っ込まずにはいられなかった。
というのも、リッポーは太いマジックを取り出したかと思うと、真っ白なプレートにでかでかと一本縦線を引いたのだ。
「6点を集めるかどうかは君に任せよう。もちろん、このプレートを相手に渡す渡さないも君の自由だ」
そういって訳ありげに口元をゆがませ、リッポーは尚樹の胸元にそのプレートをつけた。
そして尚樹が何も言わないうちに背中を向けてしまう。
それを無言で見送った尚樹は、「1番かよ…」と思わず本音を漏らした。


「ゴンってくじ運ないね」
ひょっこりと現れた尚樹にゴンとキルアは肩を揺らした。
「お前…っ!気配消して近づくなよ!」
「え? 別にそんなことないけど…俺ってそんなに影薄い?」
「いやそういう意味じゃなくて…ってあんた1番だったの?」
「ああ…うん。一応ね」
「せっかく今までつけてなかったのに今からつけてどうするんだよ…それじゃ狙ってくださいって言ってるようなもんだぜ?」
くじを引いてからこっち、皆プレートを隠したというのに、いままでつけていなかったそれをわざわざつけている尚樹に、キルアは理解不能という視線を送った。
「んー…まぁ6点あつまんなそうだしいいかなって。ゴンほどじゃないけど、俺もくじ運悪いから」
「え? 尚樹は誰なの?」
「内緒」
「何だよそれー。教えろよ」
「まぁまぁ。ゴンでもキルアでもないから安心しなよ」
尚樹の言葉にゴンは安心したようだが、キルアは不満げだ。そんな子供たちの頭を尚樹はわしわしと撫でた。
「ちょっ!やめろよ」
「ごめんごめん。つい。若いっていいね」
「あんたも十分若いだろ」
「いや俺はもうお年を召してますから。見た目は子供、頭脳は大人、心は老人ってどっかの探偵も言ってるし」
はぁ? 意味わかんねぇ…とキルアが呆れた視線を送るも、尚樹はどこ吹く風だ。
きっとこういうのをマイペースっていうんだろうな、とゴンはそのやり取りを眺めた。
「ま、俺のことはいいから頑張り給え少年達」
ふたたび2人の頭にぽんぽんと手をのせて、尚樹はそこを後にした。彼の飼い猫もそれに続く。
尚樹が話もそこそこに立ち去ったのは、ゴンたちの位置からでは死角になる位置に、人の気配を感じたからだ。不自然に見えないようにそちらに近づく。近づくにつれて尚樹は顔を伏せ、相手のつま先に視線をやった。
ついでにそのままばふっと抱きつく。相手からすればしがみつく、といった感じだが。
「癒される…はやく素顔が見たいですイルミさん」
それはもう切実に。
抱きつきながらもその強烈な顔を見ないようにと瞼をきつく閉じる尚樹に、イルミは大げさな…とその髪を撫でた。
子供独特の艶のある黒髪はひんやりとしていて肌に心地よい。
「まぁ…4次試験中は一度元に戻るつもりだけど…」
「そのときは呼んでください。飛んでいきますむしろ瞬間移動でも何でもします」
「…そんなにこの顔いや?」
「それはもう。コックローチと同じくらい」
ゴキブリと同列に扱われて無表情を保ちながらもイルミはちょっとショックを受けていた。
ギタラクルの姿にイルミ以上のショックを受けている尚樹はそれには気付かなかったが。
一次試験以来になるイルミの指の感触に浸りながら、尚樹は近づいてくるもうひとつの気配に必死で気付かないふりをした。
くさいものには蓋をしろ、だ。
尚樹のそんな心境などお構いなしでそのいやな気配はイルミの向かい、尚樹を間に挟むように立つ。
「イルミのその顔は許せなかったんじゃなかったのかい◆」
「指と気配と声は変わんないから顔には目をつぶることにした」
文字通り目を瞑っている尚樹にヒソカはクックッと喉を鳴らした。
「それは残念◆」
「ちなみに、お前のそのメイクには目をつぶる気は毛頭ないから安心しろ」
イルミにしがみついたまま冷たく言い放つ尚樹に、ヒソカは苦笑した。
事の成り行きを見守っていたイルミは、ヒソカよりは扱いがましかな、と尚樹の頭を撫でる。
「前から気になってたんだけど…どうして俺には敬語なの?」
初めは尚樹は敬語がデフォルトだと思っていたイルミ。しかしよく見ていると、敬語を使う相手と使わない相手がいる。ヒソカなどはそのいい例で。
はじめて2人のやり取りを見たときはその砕けた口調にすこし驚いたものだ。
「特に理由は無いですけど…イルミさんは年上ですから。基本的に年上には敬語ですよ?」
「………ヒソカは?」
「…別に、敬う必要はないかなぁって…」
『尚樹って…意外と容赦ないよね』
不覚にもヒソカとはもってしまったイルミだが、そう思わずにいられなかったのだから仕方ない。
尚樹の足元に控えていた黒猫は、ひっそりと哀れみの視線をヒソカへと送ったのだった。


HUNTER×HUNTERで20題
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