18 迷ってもいいんだ

例えば、この世界の運命。
自分と言う異分子がいても、世界は滞り無くまわる。ストーリー通り、この星の人間の言葉をかりるのなら、預言通り。だから、それにもし逆らったとき、世界はどうなるのか。リオは考える。
これから自分がしようとしている事は、もしかして余計な事なのではないのかと。あるいは、最悪な結果を招くのではないかと。
このまま何もせず見届ければ、おそらくローレライは無事解放され、世界は何事もなかったかのように明日を迎えるだろう。
そして、アッシュとルークはひとつになる。
戻ってきた人物は、アッシュなのか、ルークなのか、正確な所は分からない。何となく予想はついているが、確信は持てなかった。
でも、戻ってきたのがアッシュならティアが、ルークならナタリアがかわいそうだとは思う。
しかしそれは避けられない運命で、どうやったって、彼らの超振動が必要になるのだからリオにはどうしようもない。
イオンが死ぬのを見て、ああ、灰も残らないのかとかわいそうになったのと同時に、うらやましくもあった。
自分もあんな風に跡形もなく、光になってきえる事が出来たなら、死も恐ろしくはない。この世界に自分の痕跡など必要ない気がした。
自分がルークならばためらいなどなかったのかもしれないのに、とまぶたを伏せた。
考えても仕方がない事だ。
ルークとアッシュを救ってやる事は出来ない。でも、もしかしたらレプリカ達を生かしてやる事は可能かもしれない。
この行動が吉と出るか凶と出るか、リオには想像もつかない。いままでさんざん、傍観者面をして最後の最後で手出しをするのはずるいかもしれない。でも先を知る自分にしか出来ない事も確か。

エルドラントごとヴァンを消せば、すべてが終わる。
一万人のレプリカを犠牲にする事も、運が良ければルークとアッシュが死ぬ事もない……どちらにしろ、二人とも長くはないだろうが。
多少長く生きられるかもしれない、それだけだ。少なくとも、アッシュの乖離はもう進んでいるはずだ。
それでも、上等だろう。どこかで、折り合いを付けなければもう何も出来ない。
運命を変えるには遅すぎたのだ。自分に出来る事はここまでだ、とリオはまぶたを伏せた。唯一出来る事は神に祈る事くらいか。
同行すれば、9割方自分は死ぬのだろう。避けられない運命なのかどうかは分からないが、ジェイド達に同行すれば死ぬ確率は高い。そういう預言なのだ。経験上、預言が外れる事はない。もちろん、みずからの意思で違えれば別だが。
ローレライと同時に、第七音素を解放すれば、ホドは消滅する。必然的に足場は失われるから、そのときか、あるいはヴァンとやり合う時なのか。どうせ行っても、譜術の一つも使えない自分は役立たずもいい所だ。
絶対に明日は同行しないぞ、と心に堅く誓ってリオは部屋に戻った。

もちろん、翌日よく晴れた空の下、ヴァンと対峙しながら、リオ・ラドクリフがfuck youと短く悪態をついたのは言うまでもない。