11 やさしいふりでもいい

泊まっていくと良いと、そういってくれたリオに不覚にもジェイドは泣きそうになった。
頬が赤くなるのを自覚する。
きっと、他の誰もそんな言葉をかけてくれたりはしないだろう。
もちろん、他の誰に言われても嬉しくはないと思うが。
「俺のベッドで良いか?」
「……ええ、もちろん」
「……言っとくけど、一緒には寝ないぞ」
「ラドクリフは……寝る場所はあるんですか?」
彼の寝る場所をとってしまっては悪いと思ったが、ベッドは余っているらしい。
それに安心して、でも少し残念な気がした。それが顔に出ていたのか、ラドクリフが苦笑を浮かべる。
よく見る表情だ。その、困っているけど、でも仕方ないなぁという彼の表情が、ジェイドは好きだった。
出来れば一緒に来て欲しかったけれど、彼はYESと言ってはくれなかった。
まだ、預言には勝てないらしい。
冷めてしまったミルクを飲み干すと、くしゃくしゃと頭を撫でられた。
髪の間に指が差し込まれる感触が好きで、いつもその手を期待する。きっとジェイドの頭を撫でてくれるのは、世界広しといえども彼だけだろう。
癖なんだろうか、とその長い指を目で追う。できれば、自分にだけ特別であって欲しい。
「風呂はもう入った?」
「はい」
「そ。じゃあ、俺の部屋こっちだから」
ラドクリフのあとについて案内された部屋は、先ほどいた部屋とは違って、あまり生活感のない殺風景なものだった。
灯りがともっていないのに、差し込む月の光で室内は明るいくらいだ。
俺ので悪いけど、とクローゼットから服を取り出したリオに、そう言えばまだ軍服だった、とジェイドはそれを受け取った。
もうずっと軍服を着ているから、違和感を感じなくなってしまっている。
「ちょっと大きいかも知んないけど、我慢してな」
「いえ、そんな……かまいません。ありがとうございます」
一瞬だけまぶたを伏せたラドクリフは、いつもの表情と違って何を考えているのか分からなかった。
彼の指がジェイドの前髪をかきあげて、気がつけば目の前に彼の鎖骨が見えた。
額に少し冷たい柔らかな感触。
「一緒に行ってやれなくて、ごめんな」
おやすみ、と最後に頭をひと撫でしてリオは部屋を出て行った。
とたんに顔があつくなって目が潤むのが自分でも分かる。今の行動の意味を知りたい。
でもきっと、彼にしてみれば普通の行動なのだろう。
ああ、でも、それで構わない、とジェイドは手に持っていた服に顔を埋めた。
微かにかおる彼の匂いに、こんなんで今夜は眠れるのだろうかと、さらに顔があつくなるのを感じずにはいられなかった。