10 孤独をうつした その姿

何をそんなに不安になっているんだか、と冷たくなったジェイド・カーティスの手を引きながら、リオは自分の家に足をむけた。
普段なら、適当に店にでも入る所だが、こんな状態のジェイドを連れて入れる店なんて、グランコクマには存在しない。
画面の中のジェイド・カーティスはこんな性格ではなかったはずなのだが。
もちろんそれはリオの前だけでなのだが、そんな事をリオが知る由もない。薄々感じてはいるが。
家にだけは連れてきたくなかったわー、と遠い目をしながらドアの鍵を開けた。
「どーぞ」
「……あの、家の人は……」
「ああ、俺一人だから」
その言葉にほっとしたのか、入るのを一瞬躊躇したジェイドも素直にあとをついてきた。
室内は明かりをともしても仄暗い。
かつては両親が暮らしたこの家も、今はリオ一人。
ほとんど寝に帰っているようなものだから、大したものは置いていなかった。
あるものはすべて、彼らの名残だ。
「そこのソファに座って」
飲み物入れてくるから、ときびすを返す。
一人台所に立った所で、ようやくリオは長い長いため息をついた。
「……厄日か」
コーヒーは、よけい目が覚めるからだめだよなぁ。できればさっさと寝て欲しい。
もう時間も遅いし、今更話が終わったら宿に帰れとも言いづらい。
なにより、ジェイド自身が戻りづらいだろう。
少し子供っぽいかもしれないが、まあいいか、とミルクを鍋にそそいだ。

差し出されたカップからはあたたかな湯気があがっていた。
それをうけとってゆっくりと口を付ける。微かに甘いそれは、ひどく懐かしい味だった。
リオ・ラドクリフといると、いつも平静を保てなくなっているような気がする。
向かいに座ったラドクリフはいつもと同じ態度で、それがいつもジェイドの気持ちを動かした。
彼だけは、自分がどんなに取り乱そうと態度を変えない。
彼の周りの人間が彼を頼るように、ジェイドもどこかで彼を頼りにしていた。
「……大佐?」
黙りこくるジェイドに、リオが首を傾げる。
自分のためだけに、ついてきて欲しいと言えたらどれほど楽だろうか。
もちろん、そんなことを言ったらさすがの彼でも、困ってしまうだろうから口にはしないが。
「……どうしても、一緒には来てくれませんか」
ジェイドの言葉に、リオが困ったように微笑んだ。
「さっきも言ったと思うけど、俺が役に立てる事はないと思うよ」
「そんなことは……」
「特別強いわけじゃないし、譜術師でもないしね」
カップを握る手に力を込める。熱が冷たい手にはあついくらいだった。
「なぜ……そんなにも預言を信じるのですか」
ジェイドの問いに、リオが視線をよそへ向けた。
つられてジェイドもその先を追うが、特に何もない。
でも、まるでリオの目には何かが映っているようだった。その黒い瞳が細められる。
再びジェイドの方を向いた彼の顔は、とても穏やかな笑みを浮かべていた。

「……俺の両親はとても信心深い人たちでしたから」