07 かなしい、それともさみしい?

雪である。
かつて生まれ育った街は、雪の深い所だった。
悼むような寒さが懐かしく肌を刺し、奥底に眠った記憶を刺激する。この白さも、冷たさも静かさも、確かに覚えているのに、もう家族の顔すら思い出せない。
塗り替えられていく記憶は少しずつ古い物を浸食して、しかし確実にリオからかつての自分を奪っていった。
ケテルブルク、ジェイドの生まれ故郷。彼はどんな気持ちでここに戻ってきたのだろうか。
あんまり、良い思い出はないだろうに。
遠くにルークの姿が見える。きっとネフリーにジェイドの事でも聞いてきたのだろう。
それをじっと見送って、雪の上に寝転がった。
まだ踏み固められていない新雪は、柔らかくリオの体を受け止める。耳元で雪の軋む音がした。
「ああ、ほんと」
ここにはきたくなかったよ、とつぶやいた声は雪に融けてきえた。

指先の感覚がないほどに冷えて戻ってきたラドクリフを迎えたのは、もちろんジェイドだった。
これがグラマーな美人だったらこんなにがっかりしなかった、とリオは濡れた服を無造作に脱いで浴室に引っ込む。
その後をためらいがちにジェイドがくっついてきた。
なんだ、絶対に一緒には入らないぞ。
「大佐?」
「……どこに行っていたんですか」
「ただの散歩。気にするな」
シャッとカーテンを引いてコックをひねる。うまく力が入らなかったけれど、ちゃんとまわってくれた。
冷たい水がお湯に変わるのをまつ。ため息さえも震えていた。すこし外にいすぎたか。だがすぐに戻ってはルーク達に鉢合わせしてしまいそうだったのだから、しかたない。
すぐに暖かくなったシャワーを頭から浴びて目をつむる。
カーテンのすぐそこに気配は残ったままで、今の答えでは納得してくれないという事が分かった。分かったが、事実散歩に出ていただけなのだから、他に言いようもない。
どうしたものか。
「……ラドクリフ」
小さくかけられた声に、ため息を一つついて、シャワーをとめた。こいつは、俺を凍え死にさせる気だろうか。
「大佐、話ならあとでー……」
「聞いて欲しい話があります」
いつになく真剣な声でジェイドがリオの言葉を遮った。ああ、あの話か、とすぐに察しがつく。
できれば、ジェイドの内面に深く関わる話だから、遠慮したい。だいたいその話知ってるし、とはさすがに言えずに、リオは眉間にしわを寄せた。
「分かった。先に部屋で待ってろ」
頼むから、もうちょっと暖まらせて、とジェイドの返事も聞かずにリオは再びシャワーのコックをひねった。