06 説明できないけれど

導師イオンと親善大使、その他色々。面倒になってリオはそれ以上考えるのをやめた。
「まあ、死んではないだろうと思ってましたけどね……」
「なぜ、ここに……」
「あなた方の迎えですよ。表向きは違いますが」
アクゼリュスの崩落とともに、ジェイドの死亡も伝えられていたが、もちろんそれが本当でない事を、リオ・ラドクリフは分かっていた。正確には、知っていた、と言った方が正しいかもしれない。
彼の記憶の中に、ジェイド・カーティスの死はなかった。
「ご無事で何よりです、大佐」
かけらも心配などしていなかったので、存外冷たい響きがまじる。それをごまかすためにジェイドの頭を撫でようとして、ああ、まずいと我にかえった。
何気に、ジェイドの方が背が低く、幼く見えてしまうのでこの動作が身についてしまっていた。
意外と世話が焼ける、と言うせいもある。
しかし、仮にも上司で、世になだたるネクロマンサーだ。
本人が嫌がらないからと言って、それをまるで子供のように撫でてはまずいだろう。
ってなぜそこで悲しそうな顔をしますか、ジェイド・カーティス。意味が分からない。
「ピオニー陛下が心配しておられましたよ」
「そうですか……それは、申し訳ない事をしました」
凄くしおらしい態度に首を傾げながらも他の面々に気を配る。
この一行だけには同行したくないものだ、と自分勝手な事を考えながら、結局ジェイドの頭を目立たない程度にひと撫でして背を向けた。
「ラドクリフ?」
かすれた声で名前を呼ばれる。まるで、置いていかれる子供のような声だ。
「……今日はここで一泊していかれるんでしょう。宿まで案内しますよ」
どうせ、詳しくないんでしょう、と振り返らずに返事をすれば、小さな声でありがとう、と礼を言われた。
相変わらず、本物かと疑いたくなるほどのかわいらしさである。態度だけは。

ダアト。
そこで偶然あった男性は、まだ二十代と言う風情だった。
ルーク達の姿を認めて、驚くでもなくゆっくりと息をつく。全員を一瞥したあと、その視線はジェイドへと向けられた。
その服装から、彼がマルクトの兵だと分かる。おそらく、ジェイドの顔を知っているのだろう。
一瞬にして、ジェイドの纏う空気が一変した。
声のトーンも大きさも、まるで別人だ。その背中に大きな猫が見えたのは勘違いではないと思うが、なぜ階級が下の者にそんな態度を取るのかは分からなかった。というよりも、とても二人の関係は上司と部下には見えなかったが。
こちらの行動をみこして、手頃な宿に案内してくれた青年は、名をリオ・ラドクリフと名乗った。
「導師イオン」
いきなり呼ばれた自分の名に、イオンは肩を揺らした。導師とはいえ、その顔を知らないものも多い。
だから、名乗ってもいないうちから名前を言い当てられたときには驚いた。
「実は折り入ってお願いがあるのだが」
「……何でしょう?」
一体何を言われるのだろう、と身構えたイオンに、リオはひどく意外な言葉を口にした。
「今度預言、詠んでもらえません?」
「……え?」
「いや-、そろそろ詠んでもらわないとな、って思ってたんですよね」
視界の隅で、ジェイドが微かに顔をしかめる。
「……あなたは、預言を信じているんですか」
イオンの言葉に、青年がきょとんと目を瞬く。導師から、そのような言葉が出れば無理もない反応だろう。
イオンとしては、ジェイドと親しそうなこの男が、預言に傾倒しているというのが意外だった。
その言葉に、青年は揺らぎのない瞳でイオンを見下ろした。口の端がわずかに上がる。何かを含んだ表情。その声を形容するのに、必要なのはたった一文字。天啓のように、それはイオンの脳裏にひらめいた。
「信じていますよ、今晩の夕食の献立を任せる程度には」

彼は、嘘をついている。