05 風に吹かれたら消えてしまいそう

リオ・ラドクリフのなかで、ジェイド・カーティスといえば、鬼畜・腹黒・ドSの三拍子だ。
鬼畜とドSは一緒な気がしなくもない。でもどちらも彼には欠かせない要素だと思うのだ。
それなのにどうだ、この世界のジェイド・カーティスときたら。
うっかり30代のいい年こいた軍人が、儚美人に見える。いや、どう見ても男だが。
はにかまれるといまだに鳥肌がたつが。
遠くにジェイドの姿を認めて、そう言えばピオニー陛下の幼なじみだったか、と遠い記憶を呼び起こす。
自分もあまりムキムキな方ではないが、ジェイドはさらに細身だ。譜術師だからだろうか。
訓練中にかいた汗を腕で拭って思考を切り替える。
最近、周りが慌ただしい。ジェイドが近くにいるせいで、自然と上層部の情報も耳に入ってきていた。
細かい所までは覚えていないが、もう物語は始まっているようだ。
ゲームの通りなら、自分は本筋に深く関わる事はないと思う。だが、もし巻き込まれてしまったとき、自分はどう振る舞うのか。
また、詠んでもらうか、とジェイドが聞いたら良い顔をしないだろうことを考えて、彼から目をそらした。
青い空に浮かぶ雲が流れていく。上空は結構風が強いのかな、と午後の天気を気にしつつ、古い記憶を漁る。
自分が譜術師であれば、例えば第七譜術師であれば何か役に立てただろうか。いずれにしても、自分は画面端にも映らないような脇役だろうから、下手に関わったら死ぬな、と頭をふった。
関わりたくないのはやまやまだが、言うなればこの星の危機なので全くの無関係でいられるとは考えにくい。
マルクトの兵として、命令があれば動かざるを得ない。その辺の事は、そういえば預言に詠まれていなかったか。
ジェイドの事といい、どうも最近穴が目立つ。漠然とした不安に何かを思い出しそうだったが、結局何も思い出せなかった。きっととるに足らない事なのだろう。そうであって欲しい。
ジェイドはイオン導師をつれて、キムラスカへ向かうらしい。
キムラスカへの親書を届けるだけだというのに、タルタロスとは、両国の緊張関係がうかがえる、と指揮を執るジェイドに目をやった。
幸いにして、今回の任務にリオは抜擢されていないので同行はしない。
同行なんてしたらまず間違いなく死ぬな、と思っていたので、胸を撫で下ろしていた所だ。
この後どうなるんだっけ、と思い出そうとするが、さすがにもう細かな筋はたどれなくなっていた。
つい先日から王宮の警備に配属変更になった時は面倒だと思っていたが、今となればラッキーだったかもしれない。
じゃないと、確実に今頃俺もタルタロスの上だな、と乾いた笑みをもらした。
さて、俺も仕事に戻りますか、ときびすを返したリオの耳に、僅かにそれは聞こえた。
思わず足を止め、渋々ながらも振り返る。
離れていても、確かに視線が絡んで、そのどこか泣きそうな顔に苦笑が漏れれる。
なんて顔してるんだか、と軽く手を振った。
よくは分からないが、ジェイドはときどきああいう顔をする。いったい何を不安に思っているのかは分からない。
ただ、ああいう顔をすると放っておけない。
まるで、迷子の子供のようだ。
30代の鬼畜男でも、リオ・ラドクリフにとってはまだまだ年下の子供のようなものだった。