04 無意識

リオ・ラドクリフにとって、ジェイド・カーティスといえば、眼鏡・軍服・長髪の三拍子だ。
つまり、あまりしっかりと顔を認識していない。
だから、私服で、なおかつ髪をまとめられてしまうと誰だか気づかないと言う認識の低さである。
あの夏の日、彼と気づかずに助けてしまったその日から、彼はジェイドの意識に居座ってしまったわけだが、もちろんそんな事にはラドクリフ自身気づいていない。
そもそも、彼にとってはそれは些細な日常で、いまだあのとき助けたのがジェイド・カーティスとは気づいていない有様だった。
ジェイド・カーティス、どこまでも報われない男である。
通い慣れた酒場で、紆余曲折を経て一緒に夕食をとる事になった上司にちらりと視線を向ける。
隣に座るのは、もちろん最近何の因果か、懐かれまくっているジェイド・カーティスだ。
日本食が食いたい、と肉にフォークを刺しながら現実逃避を測ってみたりもする。
だがやはり、気になるものは気になるのだ。
このときほど、自分が世話焼きなのを呪った事はない、と後のリオ・ラドクリフは語る。
実際には、もともと世話焼きなのではなく、年のせいと言うやつだ。
「おい、あんたもうすこしタンパク質をとれよ」
「タンパク質……ですか」
「そう、肉! 魚! あんた成人男性のわりに食べる量が少ないんだよ。仮にも軍人だろうに」
ひょいひょいと自分の皿から切り分けた肉をジェイドの皿に移し替える。
何故だかそれにジェイドがにこにことするものだから、意味が分からない。思わず体が後ろに退きそうになるのを苦労して押さえつけ、出来るだけジェイドと視線をあわせないようにする。
実は、そんな彼の行動をみこして、ジェイドが意図的に二人の時は少なめに注文しているだけなのだが、もちろん彼の知る所ではない。
そうとは知らずに、今日もジェイドの中で自分の株を上げてしまうリオ・ラドクリフだった。