02 ひなた

リオ・ラドクリフは日の当たる所が好きだ、比喩でなく物理的に。
訓練場は遮る物が何もなく日当りも良い、なのでまあまあ好きである。何故まあまあかと言うと、訓練は面倒だからだ。
現在は王宮警備のほうに配属されているので、中よりは外が好ましい、らしい。
らしい、というのはすべてジェイド・カーティスのストーカーじみた調査による物であるからに他ならない。
調査、といっても本人に聞く事も、彼の友人知人に聞く事も出来ないジェイドは、ひたすら眺める、というまさにストーカー方式をとっている。
いつも人に囲まれていて、よく笑い、表情豊か。明るく頼りになる事もあって、下からの信頼もあつい。
ガラス一枚隔てた場所からずいぶん小さいラドクリフを見つめて、ジェイドは小さく吐息をついた。
自分にも、あんな風に気軽に笑いかけてはくれないだろうか、と。あんなにも楽しそうに笑うのに、ジェイドと言葉を交わす時はとたんに無表情になる。
階級が違うせいだろうか、それとも自分が「ジェイド・カーティス」だからだろうか。
窓に手を当てると、木漏れ日がちらちらとその肌に影を落とす。こつん、と額をあてて、まぶたを伏せた。
ラドクリフの視線がジェイドに向けられる事はない。
最近でこそ、すこし接触を持つようになった二人だが、もともと階級が違う事もあって、接点はほとんどない。
僅かだが言葉を交わせるようになったのは、ひとえにジェイドの地道すぎる努力によるものだ。
それでも、なかなか話しかけられず、こうして眺めている時間は結構長い。だからこそ、ストーカーじみてしまうわけだが。
ジェイドがはじめて彼を知ってから、次の接触を持つまで、実に半年の時間を有した。
ジェイド・カーティス、実は奥手な男である。
「おーおー、また熱い視線おくっちゃって。乙女丸出しだぞ、おまえ」
僅かに潤んだ瞳で思い人を眺めると言う、女の子ならかわいらしい場面も、30すぎたお世辞にも小さいとは言えない男がやるとキモイのひとことにつきる。
そんなジェイド・カーティスと幼馴染みであるピオニー九世は、呆れたように声をかけた。
たのむから、自分以外の誰もこいつのこんな姿を見てくれるな、と真剣に願う今日この頃である。
「……ピオニー、別に見つめてなんて」
気まずげに頬を上気させながら視線をそらした幼馴染みにピオニーが鳥肌を立てたのを、一体誰が責められよう。