黄色い偏見

「今のは念か?」


「質問は挙手をお願いします」
冷たく言い放った尚樹にクロロは凹む。一回休み。
はい、と尚樹の言葉に従ってシャルナークが手を上げる。そんな仕草に胸きゅんしつつも無表情のまま尚樹は「はい、シャルさんどうぞ」と教師よろしくシャルナークを指名。
「今の念?」
「そうですよ」
尚樹がしごくあっさりと返事をすると今度はノブナガが挙手。
「系統は?」
「1変化系、2放出系、3特質系。さてどれでしょう」
「3!」
なぜか答えたのはノブナガではなくクロロ。
「ブー。正解は5の具現化系でした」
4は何!? と思わず突っ込んだシャルナークにいや突っ込むところはそこじゃねぇだろうよとノブナガが返す。
この2人実は結構いいコンビだなと尚樹はその夫婦漫才的やり取りを眺めた。
すっとクロロが手を上げる。
「はい、だんちょーさんどうぞ」
「今のはどういう念なんだ?」
「はあ、これはハリポタの…」
魔法の杖で、今のは取り寄せ魔法ですと続けようとして尚樹は肝心なことを思い出す。
ハリポタと言ったところで誰にも通じない、と。
えー…一から説明しなきゃなんないの? と眉を寄せ、次の瞬間には面倒くさいからいいやと匙を投げる。
「やっぱり説明が面倒だから今の質問は却下」
イジメだ!と挙手をしてクロロが訴えるも、尚樹は取り合わない。
「はい。他にもそれって何かできるの?」
先ほどから念能力についてほいほいしゃべってくれる尚樹にこの子大丈夫だろうかと思いつつもシャルナークは質問を続ける。
「できますよ。例えば…」
尚樹が先ほどのように何か呟いてひょいっと棒切れを降ると、カウンターの上に置きっ放しのバラの花びらがふわりと舞う。パチパチパチとシャルナークはそれに拍手をした。
「どうも。…だんちょーさん何落ち込んでるの?」
ノブナガにぽんぽんと肩を叩かれているクロロは、こいつは天然か? いやいや絶対意図的だろうと恨みがましい視線を向ける。
しかしそこでふと尚樹の念を盗む条件をすでに2つ満たしていることに気付き、ちょっと盗んでみるかとクロロに悪戯心が芽生える。
盗賊の極意<スキルハンター>を具現化しようと掌に念を集めたところで、尚樹が再び棒切れを振った。
「レダクト、粉々」
棒切れから放出された光は正確にクロロの右手へと向かい指輪の一つを粉々に砕く。
「…もちろん、こんなこともできますよ? …ついでに、言い忘れてましたが店内で不審な行動はしないで下さいね?」
にっこりと笑った尚樹にクロロはいやな汗を掻いた。
えげつない…と大人たちの心がひとつになった瞬間であることは間違いない。
そんなことは露知らず、尚樹はしょうがないとばかりに溜息をついて杖を一振り。白、黄、赤のバラを1本ずつ取り寄せた。
「心理テストでもしません? 昨日近所のおねーさんに習ったんです」
すっと3本のバラを大人たちに差し出しつつ返事も聞かずに尚樹はその心理テストとやらをはじめてしまう。大人たちも特に文句はないのでそれを大人しく聞くことにした。
「簡単な心理テストです。これであなたの本当の性格が明らかに? !直感で選んでくださいね。どのバラがあなたに一番ふさわしい?」
? !とかつけているが、これを尚樹は抑揚なくしかもノンブレスで言ってのけた。もちろん、無表情で。言葉と顔のギャップにうわぁと内心思いつつも表情には出さず、まずシャルナークが白のバラを選んだ。続いてクロロが赤いバラを取る。
「ノブナガさんは?」
「ってもう黄色しか残ってねぇじゃねぇかよ」
別に白か赤でも構いませんよ? と言う尚樹に小っ恥ずかしくて嫌だとノブナガは残りのバラを取った。
おやおやまたこれは意外な…いや結構当たってるかなぁと尚樹はまず視線をクロロに向ける。やっと尚樹に構ってもらえたクロロは機嫌を直したようだ。安いやつ。尚樹は結構ひどいことを内心思いつつも、もともとクロロのご機嫌をとってやるかと始めた心理テストだったのでもくろみは成功したと言える。尚樹は本でも読んでいるかのようにすらすらと言葉をつむいだ。
「赤いバラを選んだあなたはナルシスト。
何事にも積極的、ちょっと強引。
そんなあなたは他人をいじめるのが大好き。でも本当は誰かにいじめられて喜んじゃうマゾタイプ。
表向きは美人系のオネーサンが好みだと言ってるけど実は若いオトコノコが大好物」
ぶっとシャルナークとノブナガが同時に噴出す。シャルナークはほおをぴくぴくと痙攣させながらも笑いを抑える。一方ノブナガはカウンターに突っ伏して肩を震わせていた。そんなノブナガの頭をクロロが無言で殴る。ひでぇ!というノブナガの非難は当然スルー。
「白いバラを選んだあなたはプレイボーイ。
気障な言葉を恥ずかしげもなく言っちゃうタイプ。優しそうな外見に対して腹黒。
いつも計算を怠らない頭脳派。
そんなあなたは真性のサド。年上の女性が大好物」
シャルナークを見る大人二人の視線が微妙なものになる。こいつならありうる…と二つの視線が如実に物語っている。
シャルさんはやっぱり腹黒かぁ…と思いつつ尚樹は黄色のバラを持つノブナガに視線を向けた。シャルナークとクロロの目がどんな(面白い)結果がでるのかと期待に細められる。
「黄色のバラを選んだあなたはキャラとしては三枚目。
つい皆の笑いをとってしまいます。
複雑なことを考えるのは嫌いな猪突猛進型。
目の前に壁があったら迂回せず破壊して進むタイプ。
カレー好き」
何で俺だけ食い物なんだよと突っ込みを入れるノブナガをよそに、この心理テスト結構当たるかもしれない…と白と赤のバラを見つめてわずかに顔色を悪くした大人が2人いたことを尚樹は知らない。


オチをつけたい詩的な色の5題
4)黄色い偏見
…………カレー好きと言わないで。
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